たとえば遠足の引率中、子どもの写真を撮ろうとしたら、手元にあるのは私物のスマホだけだった。
教育現場では、こうした場面が実際にあります。
和歌山市教育委員会がSkyと進めている校務用スマホの実証研究は、私物端末への依存をなくそうとするものです。この課題自体は間違いなく存在します。
ただ、その解決策として、PCとタブレットに続く「3台目の端末」を先生に配る必要があるのか。
実証内容を一つずつ見ていくと、私は少し疑問を感じます。
和歌山市の校務用スマホ実証研究
教育家庭新聞の記事によると、実証期間は8月21日から12月31日までの約4か月間です。
八幡台小学校と西脇中学校の先生35人に校務用スマホと専用アプリ「SKYMENU Mobile」を配布し、写真撮影、データ管理、連絡、タスク管理を校務用端末で行います。
背景にあるのは、校務連絡や写真撮影に先生の私物スマホが使われている問題です。記事は、情報セキュリティの懸念と運用の属人化を課題に挙げています。
実証では、校内放送を減らせるか、スマホのカメラを書画カメラとして使えるか、先生の働き方や子どもの学校生活にどのような影響があるかなどを検証するとされています。
校内放送の削減効果はそれほど大きくない
先生を呼び出すために校内放送を使うことはあります。
校務用スマホで直接連絡できるようになれば、放送を減らせるでしょう。
とはいえ、先生を呼び出す機会そのものがそれほど多くありません。便利にはなりますが、これだけで校務用スマホを導入するほどの効果があるかというと、疑問です。
書画カメラの代わりとしてスマホを使うという案も同じです。
教育現場には、GIGAスクール構想やコロナ禍をきっかけに普及したタブレット端末がすでにあります。書画カメラとして使うだけなら、スマホを新たに配らなくてもタブレットでできます。
スマホの強みは携帯性
タブレットを一日中持ち歩くのは面倒ですが、スマホならポケットに入れておけます。先生同士で連絡を取る用途では、タブレットよりスマホのほうが使いやすいでしょう。
けれども、子どもが学校にいる時間帯、先生は授業や子どもの対応をしています。
先生同士で頻繁にメッセージを送り合う時間は、実際にはそれほどありません。
私物スマホが使われやすいのは写真撮影
遠足や屋外での活動、体育館での集会など、タブレットを持たずに教室を出たとき、手元にある私物スマホで写真を撮る。
ここに情報セキュリティ上の問題があるという指摘には納得できます。
しかし、タブレットも持ち運べないわけではありません。
校外学習や写真撮影が必要な活動ではタブレットを持っていく、という運用が定着すれば、この問題の多くは既存端末でも解決できます。
もちろん、私物スマホがどの程度使われているかは学校によって違います。
日常的な校務連絡にも私物スマホを使っている学校であれば、校務用スマホを導入する意味は大きくなるでしょう。
3台の端末を使い分けること自体が負担になる
私が一番気になるのは、端末が増えることによる負担です。
すでにPCとタブレットを使っているところに、さらにスマホが加わります。
端末ごとに作業を使い分けるには、それぞれの端末やソフトウェアの使い方を覚える必要があります。
教育現場では、新しいツールの使い方を覚えること自体が負担になる先生も少なくありません。
導入したものの結局ほとんど使われなくなる、ということが学校ではよく起こります。
PC、タブレット、スマホの間でデータや作業が完全に同期され、「どの端末からでも同じ仕事ができる」という状態になるのであれば話は変わります。
机ではPC、授業中はタブレット、移動中はスマホというように、場面に合わせて使いやすい端末を選べるからです。
それでも、3台を管理する負担は残ります。
PCを希望制にして、タブレットへ寄せる
私は、端末を増やすより、むしろ減らす方向も検討してよいと思います。
理想は、校務の多くをタブレットに集約することです。
「校務にはPCが必要」という先生もいるでしょう。それならPCを希望制にすればいい。
PCが必要な先生にはPCとタブレットを配り、不要な先生はタブレットだけを使う。
WindowsやChromebookのタブレットを使っている学校なら、仕事の内容によってはPCを別に用意する必要性はかなり下がります。
iPadを中心に使っている学校では、PCが必要になる場面も多いでしょう。すべての学校でPCをなくせるとは思いません。
PCに依存した校務システムやソフトウェアが残っていないことも条件になります。
端末を増やしていく前に、先生全員がすべての端末を必要としているのかを確かめるのが先です。
校務用スマホの実証は、和歌山市のほかに四日市市や高知県香美市でも行われていると報じられています。
端末を足す実証をするのであれば、いまある端末に集約して減らす案も、同じように検討されてよいと思います。